最近はスプリントトレーニングをおこなっていることもあり、脚のバネを使うエクササイズを以前よりも指導しています。
その結果、スプリントのみならず他のサッカーのアクションに対しても良い影響が出ています。
そもそもバネって?
よく、「バネのあるジャンプ・動き」と表現されますが、そもそもバネとは何でしょうか?
バネについてWikipediaで調べてみると以下のような記載があります。
ばねとは、力が加わると変形して力を取り除くと元に戻るという、物体の弾性という性質を利用する機械要素である。広義には、弾性の利用を主な目的とするものの総称ともいえる。
「弾性という性質を利用する機械要素」「弾性の利用を主な目的とするもの」という記載がありますが、弾性を利用する組織は人体にも存在します。
それは腱組織であり、代表的なものが人体で最大かつ最も強い腱であるアキレス腱です。
このアキレス腱がバネのある動きにとても重要な組織であり、バネのある動きに最も重要な要素と言っても過言ではありません。
(カンガルーのバネがあるジャンプ、その秘密は太くて長いアキレス腱にあるそうです)
アキレス腱は筋肉とは違って腱組織であるため、筋肉のように自らの意思で縮んで力を発揮することはできません。
しかし、腱は大きな弾性エネルギーを貯蓄して再利用できるという特徴があります。
弾性エネルギーを貯蓄・再利用する運動は筋肉のみを利用する運動よりも低コストでパワーにも優れるため、スポーツパフォーマンスにとても重要です。
この理屈はその場でジャンプしてみるとすぐに理解できます。
その場で10回連続で足首のみでピョンピョンとジャンプをしてみると、前半5回のジャンプよりも後半5回のジャンプの方が高く飛べるはずです。
前半の5回は勢いに乗り切れていない=まだ十分に弾性エネルギーを利用できていない状態です。
しかし、後半につれて勢いがついてくるとその分の弾性エネルギーも使用できるため高く飛べるようになります。
これが弾性エネルギーを使用するということです。
バネはサッカーのどの局面で重要か?
バネを使った運動が重要なのは先ほど述べた通り、低コストかつパワーに優れるためです。
では具体的にサッカーのどの局面で重要になるかを考えていきましょう。
スプリントとバネの関係
スプリントでバネが必要なのはイメージしやすいはずです。
股関節で大きい力発揮をすることによってスプリント動作はおこなわれますが、足首がフニャフニャでバネが使えないと足が地面に接地したときに潰れてしまい、バネ・弾性エネルギーを上手く利用することができません。
(地面に接地した際に足首をグッと固めておかないと、バネを利用できずに次の動作が遅れてしまいます)
また、加速の局面よりもスピードが速くなった中間疾走・最高速度の局面ではよりバネの重要性は高まります。
加速区間と最高速度の区間では地面に足が接地している時間は異なり、後者の方が接地時間は短くなります1。
これは最高速度区間につれてスピードも速くなり、加速区間よりも大きな弾性エネルギーを利用できるため、接地時間が短くなっていると考えることができます。
ちなみに加速区間では最高速度区間よりも股関節伸展が求められ、ハムストリング(大腿二頭筋長頭)が高い筋力発揮をしていたという研究もあります2。
どちらか一つの要素で全てが決まるものではありませんが、加速ではより筋力的要素が必要になり、最高速度ではバネが必要となるといえるかもしれません。
ここでサッカーにおけるスプリントについて考えてみます。
サッカーは陸上の100m走とは違い、相手と一緒に「よーいスタート」で走ることはなく、常にお互いが動きながらシチュエーションに応じてスプリントを含むアクションをおこないます。
少しランニングした状態から加速するスプリントや、角度の浅い方向転換からの加速するスプリントなどは陸上にはないスプリントかと思います。
スプリントが速い選手は、速い選手なりの理由がある。
サッカーなので一つの曲面で多くを語ることはできませんが、90分観てもそう強く思いました。
— 牡丹 亮介|パーソナルトレーナー (@ryosuke_botan) December 21, 2020
サッカーと陸上のスプリントにおける大きな違いの一つは"スタート"です。
サッカーでは完全に止まった状態からのスタートは少なく、ある程度動いている状態からの加速がほとんどですし、接地時間が比較的短い傾向があるかもしれません。
(急激な方向転換からの加速のように、止まっている状態からのスプリントでは筋力の重要性は高まります)
そのため、サッカー選手がトップスピードで走ることは多くありませんが、脚のバネを必要とする場面は比較的多いんじゃないかと考えています。
少し余談ですが、サッカー選手のスプリントで踵から接地して走る選手は少なくないように感じています。
(少なくとも自分がトレーニング指導をするレベルでは)
踵から接地するスプリントではバネを十分に使うことはできません。
バネが使えない不適切なスプリントフォームで走っていると、過剰に太ももやふくらはぎの筋肉を使ってしまい、スプリントに適さない体型になってしまう恐れがあります。
そのため、サッカー選手にトレーニング指導をする際はスプリントフォームの修正を重要視しています。
ドリブルとバネの関係
ドリブルもバネとの関連性を少しイメージしやすいかもしれません。
ボールをカラダの前に置いてスピードに乗ってドリブルをするような選手では脚のバネはより重要だと考えています。
クリスティアーノ・ロナウド選手のようなドリブルをイメージするとわかりやすいでしょうか。
0:35〜 ドリブルからのシュート
5:57からのドリブルシュート
このようなドリブルではスピードにも乗っていますし、短い時間で効率よく動くためにもバネは重要になるはずです。
バネが無いとスピードを高めることに努力する割合が高くなってしまい、姿勢が崩れたり多くの体力を消費してしまい、次のアクションであるキックの精度が落ちてしまうかもしれません。
上記の動画は縦突破からのシュートですが、カットインからのシュートにおいても同様の考えです。
5:27からのカットインシュート
キックとバネの関係
「キックとバネの強さに相関関係はあるか?」
あくまで私見にはなりますが、キック自体とバネの強さには相関関係はないように感じています。
キックにおいてやはり必要なのはスキルの要素のはずですし、私のトレーニング指導ではReactive Strength Index(RSI)というバネの指標となるスコアを測定していますが、スコアが低い選手でもキックの速度が速い選手は多く存在します。
では、「キックとバネは無関係か?」というと完全にそうではなく、「スプリントや動きとの連続性で考えると必要」というのが私の意見です。
バネがあればスプリントにおいて効率よく動けるため、スプリント→キックの連続した流れがよりスムーズになるはずです。
そのようなシチュエーションのキック動作は、地面に強く踵から踏み込んで蹴るようなキックではなく、軸足を抜くような二軸と言われるキックになります。
アンドリュー・ロバートソン選手はスプリント回数も多く3、速いスプリントの中でも安定してキックができている印象です。
バネのトレーニング方法
簡単にはなりますが、バネのトレーニング種目についてご紹介します。
リバウンドジャンプ
バネを鍛えるといえばこの種目!というぐらいベーシックな種目ですね。
ポゴジャンプと呼ばれたりもします。
初めから全力で跳ねることを意識するのではなく、トレーニングの導入の段階においては、つま先を上に向けて足首を固めたまま地面に接地する感覚を身につけること目的にトレーニングをおこないます。
足首を固める感覚が身についたのちに、高く飛ぶようにトレーニングを進めていきます。
ウォールドリル
動画のようなウォールドリルも脚の運び(動き)を改善し、脚のバネを使えるスプリントフォーム作りに有効です。
ウォールドリルをおこなってからそのままスプリントしてみると、地面に接地する感覚・脚の運び・姿勢などの変化を実感することができます。
しかし、アキレス腱に大きなストレスがかかりやすい種目であり、トレーニングの強度はやや高めです。
そのため初めから全力でおこなうのではなく、まずは軽めにテンポ・膝の角度(膝を曲げてスネを前に倒すイメージ)を意識しながら実施することをオススメします。
マーク走
ストライドが過剰に大きくなり、踵から接地をしてしまうような選手にはマーク走がオススメです。
(2枚目の動画をご覧ください)
ピッチを制限することで後ろに流れる脚を素早く前に引き戻す必要があり、自然とフォアフット(前足部)接地をする環境を作ることができます。
フォアフット接地で足首をしっかりと固めることができると、アキレス腱のバネは弾性エネルギーを溜め込み、大きな力を発揮することが可能です。
まとめ
陸上の短距離選手とスプリントが速いサッカー選手を見ても、ふくらはぎの筋肉は良い意味で細い(シェイプされている)印象を受けます。
これはスプリント時の接地方法が適切で、筋肉を過剰に使うことなくバネによる弾性エネルギーを使えているのが一つの要因だと考えています。
(ふくらはぎが太い=悪いではなく、ポジションやプレースタイルなどによってはそちらの体型が有効に働くこともあります。あくまでスプリントにおいて、です)
サッカーにおいて注目される部位は体幹・股関節であることが多い印象を受けますが、そこのトレーニングで全てを解決できるわけではありません。
スプリントの頻度が少ないポジションにおいても、バネのトレーニングはサッカーのパフォーマンスアップ・障害予防に有効だと考えています。
ぜひ一度取り組んでみてください。
おまけ
こちらの動画はマサイ族のジャンプです。
In Tanzania, the Masai warrior who can jump the highest is chosen by the woman as her husband! 😳😱
🎥 (via Tiia Jones/YouTube) pic.twitter.com/iZ065CUiuL
— Jumpers World (@jumpersworldtv) February 28, 2021
2人目のジャンプ、ただただ凄いですね、、、
参考文献
1. Yu J, Sun Y, Yang C, et al. Biomechanical insights into differences between the mid-acceleration and maximum velocity phases of sprinting. J Strength Cond Res. 2016;30(7):1906-1916.
2. Higashihara A, Nagano Y, Ono T, Fukubayashi T. Differences in hamstring activation characteristics between the acceleration and maximum-speed phases of sprinting. J Sports Sci. 2018;36(12):1313-1318.
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