自分自身のムーブメントトレーニングの指導において、ムーブメントのフォームに直接指示することが少なくなってきました。

以前は「背中が丸まらないように〜」であったり、「この時は膝をもっと〜」といったように、"身体の使い方"に対して多く修正のキューイングやフィードバックを行なっていました。

しかし、運動学習や複雑系について学ぶ中で、必ずしもキレイなフォームを作ること =最適なパフォーマンスに繋がるものではないと考えるようになりました。

 

適応力を培うためのムーブメントトレーニング

ムーブメントトレーニングで大事なのは、目の前に出現するタスクに対して適切に対応出来る"適応力"を培うことだと私は考えています。

多くの球技・フィールドスポーツでは、相手や味方、ボールの動きに対して素早く反応することが求められます。

そのシチュエーションは毎回異なります。似たシチュエーションはあれど、二度と同じシチュエーションは現れません。

 

そのため、刻々と変化したり、初めて遭遇する試合のシチュエーションに対して適切に適応出来る「適応力」を培うことが大事です。

キレイなフォームでエクササイズを完結することを目的とするのではなく、文脈に応じて適切な姿勢・動作が発現するような適応力をつけること。

それこそがフィールドでのパフォーマンスを高めるために行うムーブメントトレーニングの大きな目的の一つであると私は思っています。

その適応力を高めるためのヒントとなるのが"ディファレンシャルトレーニング"といったトレーニング方法かもしれません。

ディファレンシャルトレーニングとは

ディファレンシャルトレーニングとはSchöllhornらが提唱したトレーニング方法で、"正しいプレーをする為に正しいプレーを練習しない"を哲学としています1

(厳密にはディファレンシャル"ラーニング"の哲学ですが、ここではザックリと同じものとして扱います)

 

方法論としては、選手の動きに修正のキューイングを行わなかったり、トレーニングの反復を用いずに不特定多数のバリエーションでトレーニング(練習)を行います。

俗にいう"正しいフォーム"といった教科書的な動きは個々人の能力に合わせて作られたものではないため、全ての選手にマッチするものではありません。

例えば、筋力や柔軟性の不足がある選手に対して、大きな可動域かつ大きい筋力発揮が求められるような教科書的動作を指導してしまうと、ケガのリスクを高めてしまったり、パフォーマンスを低下させてしまいます。

そのため、ディファレンシャルトレーニングでは選手に教科書的な動きを学習させてタスクを解決させるのではなく、あくまで"自分自身で解決策を見つける"ことを目的とします。

 

ディファレンシャルトレーニングの研究自体はサッカーのドリブル・パスなどのスポーツの練習で多く行われており、理想的(教科書的)な動きを学習させるための指示や反復が多い伝統的なトレーニング(練習)と比較し、有意な差があったと報告されています2

あくまでサッカーのテクニック練習においての研究であり、ムーブメントトレーニングにおいての研究ではありませんが、運動学習における一つのヒントになり得るものだと個人的には考えています。

まとめ

上記のような理由から、いま現在はムーブメントトレーニングの指導では自分が理想とするフォームの習得を目的としないようにしています。

とはいえ、ムーブメントのフォームがどうでもいいかといえばそうではなく、エクササイズやドリルを通じて結果として良くなっていくイメージです。

 

トレーニング指導を行なっていると、「意識したら出来るけど、試合のような無意識のシチュエーションでは出来ない」といった声をよく耳にします。

そもそも運動を司る脳では、意識的な動作は大脳、無意識的な動作は小脳が司るため、意識的な動作と無意識的な動作はそもそも全く違うワケです。

 

パフォーマンス下において、動作を意識して行うということは簡単ではなく、多くの球技・フィールドスポーツでは不可能に近いことも多いかと思います。

そのため、ディファレンシャルトレーニングなどのコンセプトを背景に置き、多様なエクササイズやドリルを通じて内部モデルを更新・最適化し、無意識的に動作を行えるようにすることが一つパフォーマンスアップにおいては重要な要素ではないでしょうか?

 

具体的な方法論はまたいつの日か。

 

参考

1 Frank TD, Michelbrink M, Beckmann H, Schöllhorn WI. A quantitative dynamical systems approach to differential learning: self-organization principle and order parameter equations. Biol Cybern. 2008;98(1):19-31.

2 Schöllhorn WI, Beckmann H, Michelbrink M, Sechelmann M, Trockel M, Davids K. Does noise provide a basis for the unification of motor learning theories?. Int J. Sport Psychol. 2006;37:1-21.

 

Twitterでトレーニングの情報発信等も始めました。
お気軽にフォローよろしくお願いします。

おすすめの記事