「トレーニングでパフォーマンスアップ」「サッカーのパフォーマンスを高めるために〜」といった文言をよく見かけるかと思います。
しかしながら、この「パフォーマンス」という言葉の意味はかなり抽象的な表現で、誤解を招きやすい表現かもしれません。
「パフォーマンス」の意味
私は「パフォーマンス」という言葉を2つの意味に分けて考えています。
私なりの表現であってコンセンサスがあるものではありませんので、そこだけご理解いただけたらと思います。
1. 個人のパフォーマンス
1つ目は個人の能力を表す「個人のパフォーマンス」です。
「個人の」ですので、他の選手や環境との相互作用、プレーの状況(文脈)といったものは存在しません。
簡単に言えば、プレッシャー等がないパス練習でパスを受ける、パスを蹴るといった能力。フィジカルで言えば、垂直跳びや短距離走の数値です。
私は個人のパフォーマンスについて、下記のような簡略図を用いて表現しています。
- パフォーマンス:さまざまな質の筋力発揮と持久系能力
- パターン:姿勢と動作を作る可動性と安定性
- スキル:競技アクションの質・精度(キック、トラップ、ドリブル、ディフェンス等)
- コーディネーション:身体を巧みに操作する能力
※オレンジ色のパフォーマンス=個人のパフォーマンスではありません
姿勢と動作を作る能力(パターン)が欠けるのであれば、適切な動き(コーディネーション)は行えませんし、競技アクションの中でのパワー発揮(パフォーマンス、スキル)にも影響を与える。
といったように、4つの円が交わるところは各要素が他の要素と相互作用する関係であることを表しています。
良くない例として、股関節の可動性が欠けていれば、カッティングやドリブルで切り返す際に足を適切な位置に接地できないため、次の動きが遅れることに繋がります。
その際の原因はカッティングといったコーディネーションや、ドリブルの技術といったスキルではなく、股関節の可動性、つまりはパターンが原因です。
その際は個人におけるパフォーマンスは下記のような図になっているかもしれません。
先ほどの図と比較し、パターンの円が小さくなり、それに伴ってパターンの円と重なり合っている部分が小さくなっていることがわかるかと思います。
このような状態だと、パフォーマンス発揮において可動性や安定性が強く求められる際に、パフォーマンスが低下してしまいます。
(それぞれの円の形がいびつになることで、重なりが大きくなっているところがあるのが面白いところではあります)
各要素の重なり(相互作用)を考えれば、スキルやコーディネーションだけ大きくても個人のパフォーマンスは高まらないということです。
そのため、個人のパフォーマンスにおいては各要素のバランスを考え、練習・トレーニングを行うことが必要だと考えています。
2. サッカーパフォーマンス
2つ目はサッカーの試合におけるパフォーマンス発揮である「サッカーパフォーマンス」です。
こちらでは「サッカーの」になりますので、他の選手や環境との相互作用、プレーの状況(文脈)といったものは存在します。
つまりは、サッカーの試合でのパフォーマンス発揮です。
私はニューウェルの制約モデルを用いてサッカーパフォーマンスを表現しています。
- タスク:競技で求められるタスク
- 環境:相手・味方選手、ピッチの状態、気温、湿度、場所等
- 選手:自分(個人のパフォーマンス)
図で表現される通り、サッカーの試合においてのパフォーマンス(アクションの精度・結果。上記図ではフィジカルパフォーマンス)というものは、個人のパフォーマンスだけで決まるものではありません。
相手・味方選手であったり、ピッチの状態、観客、気温などの「環境」の要因。また、パスやトラップの目的である「タスク」といったものと「選手(自分)」という要因、それらにまつわる認知や状況の判断といったものがサッカーパフォーマンスには関係します。
つまり、自分個人のパフォーマンスをいくら高めようが、サッカーに試合においては他の要因との関係によってパフォーマンスは変動するということです。
簡単な例ですが、いくらドリブルやシュートの練習を行なって質を高めたとしても、試合でパスを良い状態で受けることが出来なかったりすると、その後のドリブル、シュートの質は下がるはずです。
それは自分のドリブルやシュートの質の問題ではなく、ポジショニングや味方選手との連携といった要素が根底に問題としてあるからです。
メッシ選手がバルセロナとアルゼンチン代表でパフォーマンスに差があるのも同じ考えだと思っています。
メッシ選手が持っている個人のパフォーマンスに差はありません、同じ人物です。しかしパフォーマンスに違いが出るのは、他の選手との相互作用や環境といった要因が異なるためです。
ピッチにおけるパフォーマンス、サッカーパフォーマンスでは選手同士や環境との相互作用、プレー状況(文脈)といったものを考慮しなければなりません。
相互作用や文脈を考慮したトレーニングは基本的にはボールを使い、相手と味方が存在するチームでの練習です。
つまり、サッカーパフォーマンスはチームの練習によって最適化されます。
ここで「向上」ではなく「最適化」と表現したのは、自分が持っている能力自体は相互作用を考慮したトレーニング(練習)では大きく変わらないためです。
言葉遊びに近いかもしれませんが、私はこの違いはとても重要だと思っています。
まとめ
個人のパフォーマンスとサッカーのパフォーマンスは、「個人→サッカー」といった連続体の構造ではなく、また、オーバーラップする部分も大きいと考えています。
そのため、ジムでのトレーニングにおいてはサッカーと完全に分離するのではなく、オーバーラップする部分を考えてトレーニングすることが必要だと考えています。
そういった意味を考慮してのジムでのトレーニングは、もしかすると「サッカーのパフォーマンスアップ」と言えるのかもしれません。
こういったパフォーマンスの構造を自分の中で言語化し、頭に整理しておくことは練習・トレーニングを行う意味を明確化し、練習とトレーニングの質の向上に繋がります。
私見になりますが、今後のスポーツ界、今でもそうかもしれませんが、ただ単に「練習を頑張る、トレーニングを頑張る」だけではアスリートとしての成功はなかなか難しいのではないかと思います。
現代のようなさまざまな情報が簡単に手に入る社会の中、今後トップで生き残っていくのは「賢い選手」「適応力のある選手」だと思っています。特に複雑性の高いサッカーでは、です。
そのため、考えを言語化してリテラシーを高めていくことが、今後はサッカー選手にとって重要になるのではないかと考えています。
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